铁姑娘(アイアンガール)

「铁姑娘」は文化大革命時の固有名詞と
して中国人にはよく知られた言葉です。
文字通り「鉄の如く強い娘」という意味。

中国建国直後から繰り返される政治運動や
無謀で杜撰な経済政策によって社会全体の
経済は深刻なダメージを受けました。

経済が深刻になっているのに皆、無意味で
残忍な政治運動に明け暮れて、さらなる
労働力の欠缺(けんけつ)を招いたため、
政府は女性を就労させることをひとつの
解決策として推進します。

中共は全土の地主狩りに注力していた
ところですから、社会風潮を『伝統文化は
古い糟粕(そうはく)であるから徹底的に
破壊して新しい世界を構築しましょう!』
などのスローガンを民衆に浸透させる
必要がありました。その浸透を加速させる
ためにも「新時代の女性の理想像」を
設けることがマッチしたわけですね。

従来の「優しく家庭的な女」「良妻賢母」
といった観念を否定し、「(性別は無視し)
男と同様に働け!」「女性は半辺天だ!」
「鉄姑娘になれ!」などとマスコミを
使って大々的な宣伝を展開しました。
政府は女性たちが(従来は男性しか従事
しなかった)重工業や重肉体労働に
就労することをとくに推進したのです。

まず各地の「優秀な鉄姑娘」を発掘(?)し
テレビや雑誌、人民日報や映画などで
大々的に取り上げます。この中から数名を
「スター鉄姑娘」として盛り立てて、
さらにキャンペーンを推し進めました。

当時のテレビの普及率は低かったものの
たとえば映画本編の開始前に流されるCMで
「毛沢東とインタビュー形式で対談する
スター鉄姑娘の様子」等を放映することで
いかにもこれからの時代を生きる理想的な
姿であるかのように宣伝しました。
(※あの時代ですから『ええっ!毛主席と
直にお話できるって!この人スゴく能力が
あるのね!ステキ!』てな調子です)
スター鉄姑娘の何人かは政界に進出して
党内部で出世したりもしました。

ちなみに中共が持ち上げたスター鉄姑娘が
どんな感じの女性だったのかというと…
・髪型はショートカット
・もちろん化粧はナシ
・衣服も男性用のデザイン
・声は大きく言葉遣いも男らしい
・立ち居振る舞いも男らしく
・(こう言っては身も蓋もないが)不美人

当時はまだ少女だった私の母は、まともに
その影響を受け、スター鉄姑娘らに憧れて
同じ夢を見ている仲間と「鉄姑娘労働隊」
なんてのを結成し、男性と同じ…時には
男性よりも厳しい重労働をしたとのこと。

とはいえ女性ですから一般論として体躯は
男性より華奢ですし、「男性よりも女性の
ほうが重労働に向いている」ハズもなく、
私の母を含めみなさん故障したりしていた
そうです。(母も若い頃から腰を痛めて
いて、今もその箇所の関節痛があります)

そんな母ですが、当時を振り返って自分の
経験に相当な誇りを持っています。
「時には男性を凌駕した」とエピソードを
嬉しそうに語る母を見て、これもまた母の
自信の材料になったんだなあと感じます。

封建時代を過ごした祖母は学校へは通わず
纏足だったこともあり簡単に外出はできぬ
状況でした。母はそういった時代の女性の
運命と、「家の外の世界を知り、男と肩を
並べて競い合う」という自分の運命とを
比べ、(自己の健康を代償としても)自分は
幸せだと感じていたようです。

私も纏足や自由が少なめといった点で昔の
価値観や文化がすべて良いものだとは思い
ません。しかし、母を最も尊敬する人と
思っている私でも「男と同様にできた!」
と身体を損ねても喜べる母の感覚は到底
理解できないです~。まあ母とは世代も
違いますし、あの時代の共産党の薫陶を
受けていないこともあるでしょうけど。

今はすでに男女平等が成っていますが、
母は子供の頃に男性こそが「真っ当な
人間」で、女性を「男性に付随する者」と
感じてしまったのかもしれません。
それゆえ「男と戦って勝つ」ことに喜びを
感じたのでしょう。現代に生まれた私には
男性と対立・対抗し、打ち勝つことも、
強引に同列に並べて比べることも意味や
意義を見いだせません。

“铁姑娘(アイアンガール)” への6件の返信

  1. いやはや丁寧で上手な日本語の文章で感心いたします。
    性別の差による社会的な不利益は日本の方が遥かに大きく、この点が中国を旅した時に実感したところです。
    強い女性と言えば私の父方の祖母を思い出しますが、戦争直後に鍼灸医の祖父が寝たきりになり7人の子供を抱えていたそうです。
    祖母は一人で働きながら祖父の看病と子供の面倒を見て、時には自分の食べる分まで子供に与えていたそうです。
    そのおかげさまで私がいますので、私の生涯の目標は祖母のような強くて優しい人間になることとなりました。

    • お祖母さん本当に素晴らしいかたですね。自分の健康を損ねかねない境遇の中で頑張りぬいて子育て・看病を完遂したのですから。お祖母さんのような強い女性の話を聞くと『私もがんばらないといけないな』と勇気が出ます!

  2. 戦前に生まれた日本女性も、強い人が
    多かったと聞きます。

    時代や社会が、人を強くさせるでしょうね。

    • おっしゃる通りですね。中国も昔の厳しかった時代を生きてきた人は強いですが、最近は豊かな環境に変わりましたからずいぶんと活力が(昔の人に比べて)劣る人が多くなった気がします。

  3. これ思ったんですがめめこさんのお母さんって向上心あって勤勉で前向きで逆境に負けない強い心を持ち合わせて素晴らしいですね。
    お父様との出会いも気になります。

    • うちの母は強い面がありますが、長所でもありますが時には短所になることも。
      幸い優しい性格の父と出会ったものですから、その包容力や忍耐力に助けられてこんにちまでうまくやってこれたのだと思います。

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